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東京地方裁判所 昭和31年(タ)119号 判決 1956年9月13日

原告 ジエームス・エヴアレツト・アウレル

被告 ジヨリン・ホルトン・アウレル

主文

原告と被告とを離婚する。

原告と被告の間の長男ポール・グレイ・アウレル、次男ステイーヴン・ハント・アウレルの監護者を被告ホルトンと定める。

原告は被告に対し、右子等が結婚するか、自活出来るようになるか、満二十一年の成年に達するまで、一人につき一ケ月米貨百弗あて支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一項及び第四項と同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は、一九一一年一月五日アメリカ合衆国カンサス州マツクフアーソンで出生し、原被告共に米国市民権を有し、一九四七年三月六日テキサス州ジエフアーソン郡において、婚姻した。その後一九四九年に日本に来り、東京都港区赤坂表町三丁目一番地に家庭をもうけ同棲していた。

二、しかるに被告は原告に対し、度々、原告と共に暮すこと、日本で生活すること等を希望せず、又、婚姻に疲れたから自由になりたいと述べ、一九五五年(昭和三十年)六月十日、原告を置き去りにしたまゝ、アメリカに帰つたのであつて、日本を去る数ケ月前より妻としての義務を著しく怠り、原告に非常な苦痛を与えていた。被告は現在カルフオルニヤ州サンフランシスコに居を構えて、原告の許に帰るようにとの原告の要請に応じない。

従つて、被告は、原被告間の婚姻を無意味ならしめるような極端な虐待と著しい義務不履行をし、且つ、一九五六年(昭和三十一年)六月十日を以つて満一年に達する遺棄を継続しているのである。

三、而して法例第十六条及び第二十七条第三項によれば、離婚については一般に夫の本国法たるカンサス州法が適用されることになるが、アメリカ合衆国国際私法によれば離婚事件については、当事者いずれか一方の居住地の法律を適用するものとされているので、法例第二十九条に従い日本民法によつて判断されるべきものであり、右事実は同民法第七百七十条第一項第二号にいわゆる配偶者から悪意で遺棄されたときにあたることは明白である。更に極端な虐待、著しい義務の懈怠は同条第一項第五号に該当するだけでなく、極端な虐待、著しい義務の懈怠及び一ケ年の遺棄はカンサス州法においても離婚の事由となつている。ので本訴請求に及んだと陳述し、被告の子の監護及びその費用に関する申立には異議はないと述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は請求の趣旨第一項は、原告の請求どおり訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、原告の主張事実はすべて認めると答えて、申立として、原被告間には一九四八年三月十日出生した長男ポール・グレイ・アウレル・一九五一年一月十二日出生した次男ステイーヴン・ハント・アウレルの両名があるが右両名はいずれも米国の市民権を有し、原被告の別居後も引続き被告の手許で養育し、将来もアメリカにおいて教育するのが望しいので、右未成年両名の監護者を被告と定められたく又原告は、日本において多額の収入を得ているのであるから、父親の責任からも、子供等が結婚するか、自活できるようになるか、満二十一歳の成年に達するか、いずれかの時まで子供一人につき、一ケ月米貨百弗の監護に関する費用の支払を命ぜられたいと述べた。<立証省略>

理由

方式及び趣旨により外国公文書であると認められるので真正に成立したものと認める甲第一号証(出生証明書)、甲第二項証(婚姻認可証)、甲第四号証(旅券、アメリカ合衆国副領事作成)と弁論の全趣旨を綜合すれば原被告の出生、国籍婚姻に関する事実は原告主張のとおりであること、並に、ポール・グレイ・アウレル、ステイーヴン・ハント・アウレルの出生に関する事実及び現在右両名が被告の許で養育されている事実は、被告主張のとおりであることがそれぞれ認められる。

更に原告本人尋問の結果によれば、原被告共に一九四九年十二月、日本へ永住の意思を以て渡来し、原告の現在の住所に家庭をもち同棲生活を続けていた事実、及び被告が一九五五年六月十日に、原告を残したまゝ米国に帰つて爾来、原告が被告に対して原告の許へ帰るようにいくら希望しても被告は原告の許へ戻つて来ない事実を認めることができる。

法例第十六条、第二十七条第三項により離婚は、その原因である事実が発生した時における夫の本国法によるべきであるから、本件離婚原因事実が発生した時の原告の本国法であるカンサス州の法律によるべきものである。しかるにアメリカ合衆国国際私法は、離婚につき当事者の住所地法を適用すべきものと定めているから、法例第二十九条に従い、日本民法に準拠して判断しなければならない。そうして、右認定事実によれば、被告は妻として夫である原告に対して同居の義務を著しく懈怠したものと断ぜざるを得ないから、該事実は、日本民法第七百七十条第一項第二号にいわゆる、配偶者を悪意で遺棄したときにあたるから原告の本訴請求は正当として認容すべく、次に被告の監護者を定める申立について考えるに、監護者の決定は法例第二十条により又被告の未成年の子の監護及び教育の費用の支払を求める申立について考えるに、法例第二十一条によるべく、共に父の本国法であるカンサス州の法律によつて判断すべきところ同州法令録によれば、離婚について、婚姻中に生れた未成年の子の後見、監護扶養及び教育につき裁判所は命令をなすことができる。と規定されており、同州法によれば満二十一年を以て成年となる事は、原告本人尋問の結果によつて認定できる。そうだとすれば子供を現に監護教育の任に当つている被告を監護者と定めるを妥当とし、原告は日本において、多額の収益をあげており、且つ、父親としての責任からも、未成年の子が結婚するか、自活し得るようになるか、又は満二十一歳の成年に達するまで未成年の子一人について一ケ月米貨百弗の監護教育の費用を被告に支払うのが当然であると考えられるし原告もこの点を認めているのである。以上の理由から被告の申立もすべて正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤令造 田中宗雄 間中彦次)

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